研究助成事業について

榊原仟(常務理事、東京女子医科大学教授・外科学、物故)、吉岡博人(当時理事長、物故)、冲中重雄(理事、東京大学教授・内科学、物故)、木本誠二(理事、東京大学教授・外科学、物故)は、我が国の循環器医学の画期的進歩を促すため、公益法人の役割として、先進諸国に劣らぬ設備・機器を有する研究施設を開設し、これを全国の優秀な研究者の利用を可能とする研究支援を構想しました。

当時の記録によると、「その研究所は、世界のどのような医学者にも公開され、利用されるものでありたいと願ったのである。いままで書いてきたところでもわかるように、心臓や血管の病気の治療や予防の方法が発達するためには、地味な基礎研究が黙々として行われねばならぬ。それには一見無駄なように見える費用がたくさん要る。また、その設備もなくてはならない。」とあります。

1968年春、故石坂泰三氏ら経済団体連合会関係者の支援を得て、最新鋭の機材を設備し動物実験が可能な地上二階、地下一階の研究所が完成しました。この基礎研究施設開設を機に、全国の研究者を対象に、研究の場所・設備と研究費を支援する「公募研究助成」が発足しました。
循環器医学に関する本研究助成は、その後50年に亘り継続し、2017年に幕を閉じました。この間の助成総額は約5億9,000万円、延べ419件の研究支援を果たすことが出来ました。

21世紀に入ると、世界の次世代と伍して活躍する若手研究者の育成が喫緊の課題として取り上げられるようになりました。2003年、当時の理事長 細田瑳一は、循環器の基礎及び臨床研究を担う40歳未満の研究者に研究費を助成する「榊原記念研究助成」を創設いたしました。毎年公募される研究は、世界的視野に立って研究を指導しておられる研究委員により審査採択され、2年の幅での助成となっています。その研究成果は、学術研究雑誌等で広く世界に発信されています。研究助成を受けられた研究者は、我が国の循環器病研究の先駆者、指導者として活躍しておられます。

 

1.榊原記念研究助成金

循環器の基礎及び臨床研究の研究を行う40歳以下の全国の若手研究者を対象としております。

2024年5月18日に、公募研究採択委員会を開催し、第22回榊原記念研究助成の採択者は、下記のように決定いたしました。

第22回(2024年度) 榊原記念研究助成金研究題目

助成対象課題:【不整脈:基礎と臨床から】

研究期間 : 2024年9月~2026年8月

No.研究題目所属研究者
1.
心外膜脂肪と心房細動
大分大学医学部循環器内科
臨床検査診断学講座
安部 一太郎
2.
アンチセンス核酸を用いた、心筋症の予後を改善する新規抗不整脈治療法の開発
京都大学大学院医学研究科
循環器内科学
稲住 英明
3.
心房細動患者における心房筋のDNA損傷と細胞形態学的変化、機能変化、
遺伝子発現の関連性―心房筋生検による組織学的検証―
佐賀大学医学部
先進不整脈治療学講座
高橋 佑弥
4.
リアノジン受容体安定化によるあたらしいCPVTの治療
山口大学医学部
高齢者心不全講座
中村 吉秀
5.
心房特異的線維芽細胞の同定と心房細動における働き
国立循環器病研究センター研究所
心血管老化制御部
吉田 尚史

(五十音順・敬称略)

 

2.研究成果発表会および特別講演会

以下の日程で第20回榊原記念研究助成 研究成果発表会および特別講演会を開催いたします。
今年度は第20回の記念の年になりますため、講演会を、「第20回記念特別企画講演」といたしまして、会場を移動し、第274回日本循環器学会関東甲信越地方会本プログラムの「教育セッションⅡ」として開催いたします(単位取得可)

日 時 :
2024年12月14日(土)13:00~16:00
場 所 :
ステーションコンファレンス東京 402A(成果発表会)&第Ⅴ会場(記念特別企画講演)
〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-7-12
共 催 :
第274回 日本循環器学会関東甲信越地方会
https://supportoffice.jp/jcs-kanto/chihoukai/kanto_274.html

【プログラム】●第20回 榊原記念研究助成 研究成果発表会

第20回 助成対象課題:『コロナ感染、コロナワクチンにおける心筋炎、心膜炎に関する研究』
No.研究題目所属研究者
1.
クローン性造血による新型コロナウイルス感染症に伴う心筋炎発症
メカニズムの解明
名古屋大学医学部附属病院
循環器内科
由良 義充
2.
CTによる新型コロナウイルスおよびコロナワクチンに関連する心臓後遺症の包括的評価法の確立
自治医科大学附属
さいたま医療センター放射線科
相川 忠夫
3.
マウスモデルを用いたCOVID-19における心筋炎・心膜炎の病態解析
広島大学原爆放射線医科学研究所
疾患モデル解析研究分野
三浦 健人

≪第20回記念特別企画講演≫

(第274回日本循環器学会関東甲信越地方会「教育セッションⅡ」(単位取得可)

セッションテーマ:『医療AI研究プラットフォーム』

14:30~16:00

座長: 永井 良三 先生 (自治医科大学 学長)

Introduction:

「内閣府SIPプロジェクト:医療ビッグデータシステム・医療AIの現状と課題」

講師: 喜連川 優 先生 (情報・システム研究機構 機構長、東京大学 特別教授)

特別企画講演および質疑応答

「近未来の医療データ基盤の構築に向けて
ー本格的な医療LLMと医療LMMがようやく動き出すことになった
日本の新しい時代において、臨床医に期待される役割についてー」

総合司会: 瀧原 圭子 先生 (大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センター 特任教授)

■戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)とは?

SIPは、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野を超えたマネジメントにより、科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクトです。国民にとって真に重要な社会的課題や、日本経済再生に寄与できるような世界を先導する課題に取り組んでいます。
各課題を強力にリードするプログラムディレクター(PD)を中心に産学官連携を図り、基礎研究から実用化・事業化、すなわち出口までを見据えて一気通貫で研究開発を推進しています。

■SIP第3期のご紹介

SIP第3期(令和5年~)は、当財団研究委員長 永井良三先生がPDをお務めになる「統合型ヘルスケアシステムの構築」をはじめ14の課題で構成されております。医療に特化した唯一の課題であり、医療デジタルツインの実装により医療・ヘルスケアにおける「知識発見」と「医療提供」の循環が自律的に促進され、医療の質向上、健康寿命延伸、医療産業振興、持続可能な医療制度に活用されることを目指していらっしゃいます。5つのサブテーマも、LLM, LMMを背景に、生成AIを活用した次世代の医療の基盤となるものです。
永井先生には、今回“Introduction”においてSIP3研究のご紹介をいただきます。

■講師: 喜連川優 先生のご紹介

日本の情報工学・計算機科学の指導者として、東京大学生産技術研究所 教授、 国立情報学研究所 所長を歴任され、現在は情報システム研究機構 機構長、および東京大学 特別教授のお立場にて、我が国のデータ工学分野を牽引していらっしゃいます。
SIPプロジェクトにおいては、永井先生のSub PDとして医療AIのシステム構築を進められており、医療デジタルツインを活用した医療・ヘルスケア仮題のソリューションの「事業」化へのご助言や、医療デジタルツインに必要な「技術開発」に取り組まれております。